2014年11月1日の「焼酎の日」に合わせて、鹿児島県屋久島の本坊酒造株式会社 屋久島伝承蔵を訪ねてきたぞい。屋久島は鹿児島市からおよそ135kmの距離にあり、90%が深い森に包まれておる周囲132km程の島じゃ。人口は約1万3000人じゃが、猿も人間と同じ位生息しており、鹿に至ってはなんと2万頭も存在しておるそうじゃ。

http://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-1-1.html


屋久島では、暖かい気候を活かしたポンカン、タンカン、パッションフルーツなどの果樹栽培や、黒潮を利用したサバ漁、トビウオ漁、屋久杉を使った加工品、さらには登山などの観光業が盛んなのじゃが、本坊酒造屋久島伝承蔵の芋焼酎も屋久島を代表する特産品なのじゃ。さあ、それでは蔵に向かうとするかのう。


「いい時期に来られましたね。今が芋焼酎仕込みの最盛期ですよ」と笑顔で出迎えてくれたのが工場長の沖園一陽さんじゃ。沖園さんは工場長として赴任して1年近くになるというが、屋久島の魅力を訪ねると、「やはり自然の豊かさと、島の人の温かさですかね。ここでは酒造りから販売まで手掛けているので、今まで以上にお客様の顔を思いながらの焼酎造りができるようになりました」と言われたわい。

続いて、麹室を案内して貰ったぞ。芋焼酎造りには米麹を使用することが多いのじゃが、芋焼酎特有のふくよかな香気を産み出す役目も担っておる。麹菌はカビの一種なので、繁殖しやすいように室内は30°C以上に保たれておる。
「麹造りは片時も目を離せません。麹菌が上手く働いてくれるよう、ご機嫌を取りながら作業しているようなものですよ」と沖園さんは笑うが、目に見えない微生物が相手の酒造りは本当に大変な仕事なんじゃぞ、皆の衆。
今度は、発酵中の二次醪を見せてもらったが、その様子は動画で紹介しよう。


次に、焼酎(本格焼酎)造りでは、土中に埋めた甕を使用する場合があるが、その理由を伺ってみた。「当社で使用している甕は、明治20年から受け継がれてきたものです。これらはすべて国産で、今はもう作られていない貴重品。手入れや補修に大変な労力を必要としますが、良質の酵母が長年に渡り住み着いていること、土中に埋めることにより保温に優れるので、甕仕込みにこだわる蔵元が多いんですよ」と教えてくれた。

さらに、屋久島の水の特徴も伺ってみた。「屋久島の水は硬度10程度の超軟水。出来上がった焼酎も柔らかく、透明感のある飲み口になるようです」と仕込み水を差しだしてくれた。ほう、確かにこんな柔らかく、澄みきった水はなかなか飲んだことないわい。


そして蒸留器。「さつま芋の醪は、粘度が高いので、他の焼酎と比べると蒸留に手がかかります。この蒸留器の形状も先人達が研究に研究を重ねて、ネック部分の材質、大きさ、形状などを吟味し、今の形に至っているのですよ」
うーむ、蒸留器の形などにも先人の知恵が詰まっているのじゃな。

そして、杜氏に挨拶させてもらってビックリ仰天!「杜氏の久保律と申します」。なんと!こんなに若い女性が杜氏だったとは!「私は関西出身で、実家の居酒屋を手伝っているうちに、お酒に興味を持ち、中でも焼酎に魅力を感じるようになりました。そして九州各地の蔵元を巡り、焼酎と九州郷土食に惚れ込み、それがきっかけで本坊酒造の薩摩郷中蔵でアルバイトを始めたのが9年前になりますと教えてくれた。

「2007年に、ここ屋久島伝承蔵に異動して、杜氏の下で修業を始めました。少しでも早く習得したくて、毎日毎日杜氏を質問攻めにしていたように思いますね」と屈託のない笑顔を見せてくれたが、その瞳の奥に潜む焼酎造りへの情熱と、強い意志はベテランの杜氏にひけをとらない強さを感じたぞ。

「芋焼酎は、男性がダレヤメ(疲れを癒す)時に飲むキレのよい味わいと思われているかも知れませんが、私は癒しの島である屋久島をイメージさせる柔らかな香味の焼酎造りを目指しています。また、屋久島の超軟水がそれを可能にしてくれますし」と、聞かせてくれた。


「それでは、色々と試飲して頂きましょう」と別室に案内頂いた。


まず島内限定品の「水ノ森」と会員店限定の「屋久島 大自然林」から。のっけから限定焼酎とは、心が躍るわい。


「水ノ森」の美しいラベルデザインを手がけたのは屋久島在住の女性デザイナー高田裕子さんじゃ。美しい緑に包まれた屋久島らしさと、優しさを感じさせる素敵なデザインじゃのう。


「水ノ森」も「屋久島 大自然林」も、柑橘系果実のような爽やかな香りがするが、これは原料の白豊に由来するとのことじゃ。また双方とも非常に柔らかく、軽やかな飲み口で、これが屋久島の味なんだと理解できたわい。


今回の訪問で、屋久島らしさを追求するお二人の姿勢に感銘をうけたわい。やはり、酒の価値は「風土」にあると改めて感じた次第じゃ。その土地の原料や水を大切にし、その土地の気候風土を考慮し、そして何よりその土地の人々に愛されることが大切な要素となろう。

そして、その主張を持った酒が他県でも「屋久島の風土の焼酎」 として評価されると思うのじゃ。そんな大切なことを教えてくれた沖園工場長と、久保杜氏にお礼を告げて、今度は屋久島の「風土」に触れてきたぞい。
屋久島伝承蔵から車で20分程行った所に「焼酎川 という地(バス亭)があるのじゃ。(当然ワシは筋斗雲で移動したがな)


鹿児島県下の郡部には、手近にある鍋や釜などを蒸留器にしてヤミ焼酎を造っていた業者が戦後まであったそうじゃ。蒸留中は、多量の冷却水が必要になるのでほとんどが川辺で造っていたらしい。この「焼酎川」もその一つだそうじゃ。また役人による取締りがある時には、蒸留器を分解して隠したり、醪や焼酎も川に流して見つからないようにしておったようじゃの。鹿児島県でいかに焼酎が深く根ざしているかが判るエピソードじゃ。これこそ鹿児島県の「風土」じゃな。

そして、屋久島の風土食も色々と頂いてきたぞ。今宵の酒は、屋久島でしか飲めない「水ノ森」、「屋久島 大自然林」以外にあるまいて。そして当然お湯割りじゃ。まあ、何も言わなくてもお湯割りのセットは供される。鹿児島では季節問わず、芋焼酎はお湯割りで飲む人が多いが、これも鹿児島の「風土」の特徴じゃ。

肴も当然、屋久島名物を所望したが、まずは刺身で一杯。飛び魚やキビナゴなど屋久島近海で獲れた新鮮魚介類の旨さは言うまでもないが、鹿児島独特の甘くて濃い醤油と、屋久島産の天然レモンが、芋焼酎との相性を高めてくれておる。さらに、飛び魚独特の風味を芋焼酎が上手く包み込み、旨さだけを引き出してくれる。うーむ、芋焼酎の「食中酒」としての実力を十分に感じさせてくれるわい。


やはり、この旨さは都会では味わえんのぉ。
今の流通技術なら変わらない鮮度で本土にも運べるのじゃろうが、旨さの要因はそれだけではない。

この屋久島の空気、風、海や山の音、島の人の温かさ、そして造り手と触れあうことで、旨さという満足度が高まっていくのじゃよ。それを「美味」と呼びたいものじゃな。
皆の衆も、屋久島ならではの「風土」をぜひ味わってみておくれ。

【今回の取材先】
本坊酒造株式会社 屋久島伝承蔵
http://www.hombo.co.jp/company/kura/yakushima.html